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執筆者の写真はやしひろこ

こどもの逆境的体験(ACE)とトラウマ

子育ては喜びと苦しさの濃淡もくっきりしています。

わたしもほかの多くの方と同様、子育ての中でさまざまな問題に突き当たり、

悩んだり、苦しんだり、涙をたくさん流したり、模索をしてきました。


かけがえのない子どもたちを、大切に愛情深く育てたい、

その思いは真実ですが、何気ない場面で自分の生きてきた経験からの苦しさが

「ひょん」と顔を出すのです。

その「ひょん」があまりに唐突なので驚き、

思考や行動が自動反応していることにも長く気づきませんでした。


愛する、という思いと相反するかのような感情の中で、

自分の感情を見つめなおし、いったい何が起こっているのかを学ぶことになりました。


わたし自身、20年近く「触れるケア」を実践し、

ラヴィングタッチケアという触れることで愛をつたえる活動を行っています。

優しい皮膚への刺激、抱っこやタッチは、

親も子もお互いの感情をなだめ、判断する脳と協働作業をする場を自身の内側に構築するための、

力強いパートナーとなりました。


タッチケアを行ううちに、多くの方にわたしと同じような、

自動的に反応してしまう幼少期の記憶や体験があることに気づきました。


身体からこころへアプローチするタッチケアやタッチセラピーを行う専門家であれば

だれもが注意深く取り扱う身体に刻み込まれたトラウマについては、

ベッセル・ヴァン・デア・コーク博士の『身体はトラウマを記憶する』からも明らかです。


逆境的体験と心理身体との関係に関しては多くの研究がなされています。

暴力との関連、虐待との関連、貧困や家族関係との関連。

保育士でもあり、大学で心理学を学びなおすなかで、

すべてではないものの多くの方にとって幼少期の体験が、

その後の脳の発達や機能にも影響することを知りました。


逆境的トラウマ、小児期トラウマという言葉を聞いたのは数年前のこと。

アメリカでは大規模な調査が行われていました。


2018年にようやく待ち望んだ日本語訳の書籍が出版されました。

それが、こちらの<a href="https://www.amazon.co.jp/小児期トラウマがもたらす病-ACEの実態と対策-フェニックスシリーズ-ドナ・ジャクソン・ナカザワ/dp/4775941933" target="_blank" title="">『小児期トラウマがもたらす病ーACEの実態と対策』</a>

です。




この本ではACE(Adverse Childhood Experiences:逆境的小児期体験)研究について詳細にレポートされていました。

ACE研究のきっかけは肥満治療の患者が、途中で治療にこなくなることでした。

なぜ、体重が減少しだすと通院をやめてしまうのか。

そんな問いから始まったACE研究は

サンディエゴのカイザーパーマネンテ(Kaiser Permanente 保険会社)と

アメリカ疾病予防管理センター (CDC)の共同事業として

1997年から1999年に掛けて行われました。


そして肥満患者の臨床観察とインタビューの研究から、

子ども時代の体験の関与が見出されたのです。


逆境には、暴言や侮辱、精神的または物理的なネグレクト(育児放棄)、

身体的または性的虐待、親のうつ病、精神疾患、アルコールや他の物質への依存などが含まれ

10項目が挙げられました。

その後の研究によって、他の小児期のトラウマ(親との死別、きょうだいの虐待など)も長期間にわたる影響を及ぼすことが明らかになりました。


ACE(トラウマ的出来事)10項目の長期的な影響を調べると、

小児期のトラウマ体験がうつやひきこもりなどの成人後の身体・精神疾患の発症の関係について

ACE体験を6つ以上もつ方は、

ゼロの方と比べて寿命が20年も短い反論の余地がない事実が明らかになったのです。


今回、コロナでの行動制限がなければ、ACE(逆境的体験)について研究をアメリカでされている若林先生のご講義を受講する予定でした。

残念ながら来日かなわず、対面でのご講義は変更になりましたが、

オンラインで受講する機会を得ることができました。


余談ですが、新型コロナでの活動制限は、急速なオンラインでの学びを可能にしてくれました。

この半年で、わたしは200時間くらいのオンライン講義を受講しています。

ありがたいことです。

移動することもなく、自宅にいながらにして質の高い学びが可能になりました。

海外カンファレンスも気軽に参加できますし、後日視聴のおかげで何度もリピートすることさえできるのです。


さて、話しはもどって

オークランド大学の若林先生のご講義からは、逆境的体験についてのアメリカでの取り組みなど貴重な内容でした。


・ACEは特別な環境ではなく、実にありふれた一般的な体験であること。

・ACEと寿命の関連

・ACEが長期的影響をもたらすこと

・とくに小児期のACEが脳の発達に大きな影響をもたらすメカニズム


タッチケアレッスンに訪れるお子さまの多様な個性に向き合う中で、

この何年か、「子育てを科学する」という視点で、こどもの脳と発達について学びを続け、

この夏に「こころの発達アテンダント」として認定を受けました。


思いもかけない行動をするこどもの脳の中で、今何が起こっているのか、

感覚や認知はどのようにこどもの行動に影響しているのか、

そもそも、発達するとは何を意味しているのか、

またこどもの行動にたいしてサポーティブに関わるとはどういうことなのか、

なぜ集中できないのか

なぜパニックになるのか、

を保護者の方に伝えることができるようになりました。


ACE研究をもとにしたアメリカでの取り組み、

また発達アテンダントの学びの中でも中核をなすのは


【予測可能なことは予防可能である】


という点です。


これはACEによるトラウマを持つこどもたちだけでなく、かつてこどもであった大人にも同様のことがいえます。


「すべてのこども」

にトラウマ体験がある可能性があるという視点に立つ学校がすでにアメリカでは存在していることも希望と励ましになっています。


触れるケア、タッチケアは肌に触れるという直接的な経験であるからこそ

トラウマのトリガーを無防備に引き起こしてしまう可能性もあります。


こどもたちを守り、安全を確保し、

こどもを尊重する関わりのひとつとしてタッチケアを提供できるように、

触れるケアを行う大人の在り方、理解が求められます。


すべてのこどもたち、すべてのかつてのこどもたちが、

尊重と思いやりと愛のあるタッチを受けることができる世界を

わたしたちの手から。


お知らせ:

「子育てを科学する」オンライン講座

保護者対象の全3回を2021年1月に開講します。

こどもの発達と脳について、乳幼児から思春期まで、子育てのヒントになる視点をお伝えします。

https://www.tsumuginomori.com/blank-7/kosodatewokagakusuru-dai1kozakosei-kokoronohattatsuatendantosumairukosu-zen3kai

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